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東京高等裁判所 昭和29年(う)229号 判決

控訴人 原審検察官 本位田昇

被告人 砂長政七

弁護人 島田徳郎

検察官 中条義英

主文

原判決を破棄する。

被告人を罰金五、〇〇〇円に処する。

右罰金を完納することができないときは金二〇〇円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

原審の訴訟費用は全部被告人の負担とする。

理由

検察官検事本位田昇の控訴趣意および弁護人島田徳郎の之に対する答弁は、本判決末尾添附の控訴趣意書および答弁書に各記載のとおりであるから、これについて判断する。

控訴趣意第一乃至第五の要旨は、およそ営業の目的を以て同種行為を反覆継続的に行うことをいうものなるところ本件において、被告人は、古物営業法所定の許可を受けることなく、利得の意図を以て数回にわたり売却委託、買受又は交換により中古自転車数台を入手して之を他に売却し相当の利益を挙げたのであるから、当然無許可の古物営業犯の成立を来している。然るに、原判決は猶被告人には同営業行為を以て目すべき事実の証明十分ならずとして無罪を宣したのは事実を誤認し延いては法令の適用を誤つたものであるというにある。

答弁一、二の要旨は、営業とは営利の目的を以て又継続的収入を図るため或いは自己の生活を維持する意図で同種行為をなすことを指称し、単に利得の意図でなした行為を以て直ちに営業というべきではない。故に原判決において被告人の本件所為を以て単純利得行為に過ぎずと解し、従つて被告人には公訴の如き古物営業をなしたる証明十分ならずとして無罪を言渡したのは正当であり、事実誤認も適条の誤りもないというにある。

そこで審按するに、

一般に営業とは営利の目的を以て同種類の行為を継続的に反覆累行することをいい、此の判断は行為の実状に即して客観的になさるべきものであり、その営利は右業務を構成する各所為毎に現実且つ積極的な利得あることを必要とせず、それら一連の行為を包括的にみて利益を挙げ得べき性質のものなることを以て足り又それらの所為は全体として之により同所為者の生活の基本を維持するもの即ち本業もしくは本職等と称すべき場合のみならず、それらに雁行してなされるもの即ち副業もしくは内職等というべき場合をも汎く包含するものと解するを相当とする。之を本件についてみるに、被告人は予て自転車商人の間を廻つて古タイヤを仕入れ之を改作して履物を製造した上販売することを営業とし来た商人なるところ営利の目的を以て所定の許可を受けないまま起訴状記載第一の中古自転車二台は二回に売却委託を受け、同第二の自転車一台は之を買受け、同第三の自転車一台は石油コンロ一台に金一、〇〇〇円を打金して交換することにより夫々入手した上之を起訴状記載の如く四回に三名に売却し、そのうち右第一の初めに売却したとき金五〇〇円、同第二の売却により金一、一〇〇円の各利得をなし、なお右第一の他の一台の売却に関し謝礼として売却委託者から自転車の古タイヤ三、四本(価格約四〇〇円)の贈与を受けたこと竝びに右第一の二台の売却委託も被告人から申込んだためになされたものなることは孰れも記録上明らかである。而して同一人が同種行為を反覆した場合には、その具体的事情に照らし、その全体が継続的意思に出たものと認定するのを妨げないのであるから、比較的短期間に反覆された被告人の右各自転車の売買や交換等は孰れも継続的意思によつてなされたものと解するを相当とする。

故に、被告人の右自転車の取引行為は之を包括的に観て営利の目的を以て継続的になされた営業的行為と認めるに十分なること控訴趣意所論のとおりである。而して元来古物営業を許可にかからしめて取締る所以は賍物の取引の有無を監視することによつて之を阻止し遡つて犯罪発生自体の阻止を図ることを主眼とするものであるから、その取引取締は必ず客観的普遍的に行われるべきであり、原判決にいう如き本件取引の回数や之による利得がさまで多からざること、取引中には被告人から自転車を買取つた者の希望に基き若しくは被告人に幾分の好意もあつて始められたものであること、被告人が当時生活に困窮していたこと等は、孰れも右取締法違反罪成否を決する本質的事柄ではなく、単にその成立後犯情の軽重に関する事情たり得るに過ぎない。

故に、原判決において被告人の本件所為を以て古物營業法所定の許可を受けざるまま利得意思を以て反覆された取引であり且つ之により現実の利得もあつたことを認めながら右は未だ継続的収入の基礎となす目的の下になされた所為ではなく従つて同法にいわゆる古物營業行為とは認め難いから、結局本件公訴事実は之を認むべき証明十分ならずとして無罪を宣したのは、營業の観念の誤解に発端して事実の認定を誤り延いては法令の適用を誤るに至つたものであり、此の原判決と同調する答弁も亦同様の誤りであるといわざるを得ない。而して右の誤は判決に影響を及ぼすことが明白である。原判決は此の意味において破棄を免れず、控訴の論旨は第一乃至第五全体として理由がある。

そこで、刑訴法第三九七条第三八二条第四〇〇条但書により原判決を破棄した上更に判決する。

一、犯罪事実 原判決において「本件公訴事実の要旨」として記載している各事実(第一(一)(二)、第二、第三)

一、証拠〈省略〉

一、適用法令 古物営業法第六条第二七条、刑法第四五条前段第四八条第二項、罰金等臨時措置法第二条第一項第三条第一項第一号(所定刑中罰金刑を選択し、併合罪であるから各所為に対する罰金の合算額の範囲内で罰金五、〇〇〇円に処する)、刑法第一八条第一項、刑事訴訟法第一八一条第一項。

(裁判長判事 久札田益喜 判事 武田軍治 判事 下関忠義)

検察官の控訴趣意

第一、本件公訴事実の要旨は、被告人が所轄公安委員会から古物營業の許可を受けないで、(一)(1) 昭和二十八年二月二、三日頃群馬県群馬郡堤ケ岡大字福島四六六番地飯塚建次方において、同人から男子用中古自転車一台の売買方委託を受けその頃之を、同村大字菅谷一二一一番地萩原喜義方において同人に、代金四千円で売り渡し、(2) 同年同月下旬頃、前示飯塚建次方において、同人から婦人用中古自転車一台の売却方委託を受け、その頃之を右萩原喜義方において同人に代金三千円で売り渡し、(二)同年三月中旬頃、高崎市昭和町二一一番地草間平左エ門方において同人から男子用中古自転車一台を代金九百円で買い受けその頃之を群馬郡中川村大字小八木一〇八番地高橋大方において、同人に代金二千円で売り渡し、(三)同年三月下旬頃、群馬郡総社町大字植野四六二番地斎藤幾雄方において、同人から石油コンロ一個と交換で、婦人用中古自転車一台を譲り受け、その頃之を同郡堤ケ岡村大字菅谷七三番地朴元善方において、同人に代金二千五百円で売り渡し、

以て古物營業をしたものである。というのであつて、右事実に適用せらるべき罰条として、古物營業法第六条第二十七条を提げているのである。

第二、しかるところ原審は、之が事実に関し、被告人が四台の自転車売却方依頼を受けて之を売り渡したことは明瞭であるが、これを古物営業と認定するには古物の売買、斡旋、交換など、これが取引の態様や利益状況など、諸般の事情を考慮し、客観的に観察して、或る程度古物営業としての形態を備えた行為でなければならぬとし、被告人の行為に対し、被告人は平素から、自転車商を歩いて古タイヤを買い、之を材料として履物を製造し、同業者に卸すかたわら、自ら履物行商をしていたものであり、自然自転車商に出入し容易に世話できる立場にあつたのでこれを引き受けて周旋しただけで、その間、被告人において利得する意思のあつたことは否めないが、それはいわば生活に困つていた被告人にとつては、いわゆる手間稼ぎとも言わるべきものであり、かたがた好意的意味でもあつたのであるから、被告人が古物営業を行つた事実を認め得る証拠がない、と述べ、結局被告人が古物営業を為したとの点は、証拠不十分と言わねばならぬとして、本件公訴事実を無罪であると断定しているのである。

第三、しかしながら古物営業法第一条第二項において、「古物商とは古物を売買し、若しくは交換し、又は委託を受けて売買し若しくは交換することを営業とする者で第二条第一項の規定による許可を受けたものをいう」と定義し同法第六条が、「古物商でない者は、古物を売買し、交換し、若しくは委託を受けて売買し、交換することを営業としてはならない」と定めているのは果して如何なる理由によるものであろうか。

本件被告人が(一)右の許可を受けていない事実、(二)数回に亘り他人から委託を受けて、古物である自転車を売り渡した事実は、共に明らかなことであるが、原審判決は右被告人の本件行為をもつて、被告人において利得する意思のあつたことは否めないとしてもそれは「いわゆる手間稼ぎとも言わるべき」程度であつて、営業の概念に至らざるものであるとし、無許可で数回古物の売買等をし或はその間、多小の利益を収めたとしても、これによつて自ら継続収入の基礎とする意思のない場合とか営業として反覆する積りのない場合はいずれも同法の適用がないとしているのである。

抑も法律用語としての営業とは「営利の目的をもつて同種の行為を反覆継続的に行うことを謂う」ものと解するのが通例であるが、古物営業法第一条第二項及び同法第六条にいわゆる営業もこれと別義に解すべき理由はないものと考える。古物営業法制定の目的は旧古物商取締法におけると同様、古物の特殊性により、古物営業を警察の監督の下において賍物の流れを阻止し又はその発見に努め、被害者の保護にあたると共に犯罪の検挙を容易にし延いては犯罪の発生を未然に防止し国民生活の安寧を維持し公共の福祉を増進するにあることは極めて明らかなところである。

本法の提案理由にも「古物の取扱を公正明朗にすると共に、古物の取引に際して、盗品の発見につとめることによつて、犯罪の防止を効果的ならしめるため」と述べられているのであつて、営業許可等もその線に沿い犯罪防止のため古物の取扱を公正明朗にし、且つ警察に心から協力し得る人物を選択すると共に許可をした業者に対し如何なる形で協力すべきかを規定し所定の義務を果さないことに対しては処罰をもつてその責任を問うことも止むを得ないとする立前に立つているのである。一方無許可営業をすることは犯罪の温床となつて善良な国民の生活を不安にし且又正当な許可営業者の営業を侵害することであつて公共の福祉の立場上その弊害を黙過することができないのでこれら無許可営業者に対しては重罰をもつてのぞむ方針をとつているものと解すべきである。果して然らば、古物営業法にいわゆる営業の解釈にあたつて通例の営業の概念をむしろ拡張する理由こそあれこれを狭く解すべき理由は何処にも見出し得ないのである。

第四、原判決の認定には次の点で事実の誤認がある。

一、被告人が中古自転車の受託売買したことは、本件公訴事実による取引以前においても、既に数回行われ、同種行為を反覆継続的に行つており明らかに営業と観得る状況であつて、之を記録に徴するも、(1) 昭和二十七年八月二十六日頃、群馬県群馬郡中川村大字正観寺三〇五番地自転車業金田繁治方に至り、「自転車を欲しがつている人があるが出さないか」と申し向け中古自転車一台を指値一万一千円として販売方の委託を受け、その頃之を沼田某に売り渡し(記録八十一丁)(2) 同年十月三十日頃前示金田繁治方から同様趣旨の下に中古自転車一台を指値九千円として、販売方の委託を受け、この頃之を吉竹某に売り渡し(記録八十二丁)(3) 右の外、その頃金田繁治方の「手子」(従業員の意味)だと詐称しつつ何台かの自転車売込をしていた想像もあり(八十二丁)(4) 加之被告人は、昭和二十七年十一月頃居村群馬郡国府村役場に於て、同村書記金井善勝に対し、「古物営業の許可を受けるには、之が手続は如何にすればよいか」と尋ねたる事実よりみて当時より被告人は古物営業を行わんとする意思を有していたことは極めて明らかである(記録百三十一丁)。(5) 右に引続き昭和二十八年二月初め頃から同年三月下旬頃迄の間に前後四回に亘つて継続してこれを敢行したものである。(公訴事実)

二、被告人が右行為をなすに当り営利を目的とした点については、(1) 金田繁治方から最初受託した自転車を沼田某に売り渡した際謝礼名下に、金田から白米二升の贈与を受け(記録八十一丁)(2) 同人から二回目に受託した自転車を、吉竹某に売り渡した際は謝礼名下に被告人が使用していた自転車のこわれたのを無償で修理して貰つた(同八十二丁)。(3) 公訴事実である(一)(1) の飯塚建次からの男子用自転車は、同人から時価に比し安値である三千五百円として「それ以上に売れた分は手間にして呉れ」との指値で販売委託を受け(記録二十九丁)それを萩原喜義に四千円で売り渡し、五百円を利得し(記録十七丁、同四十八丁)(2) の同人から同様事情で委託された婦人乗自転車は、「特に二、三千円のを組立つて呉れ」との注文下に、三千円の指値で委託を受け(記録三十丁)それを前示萩原に三千円で売り渡し、本件の場合には一銭の利得もなかつた(記録四十九丁)が、被告人は(1) の場合五百円の利得を見ており乍ら、委託者飯塚には「三千五百円の元価にしかならなかつた」と嘘偽の報告をなし、(2) の場合同人に対し、「三千円にしかならず二回共元値で儲からなかつた、二回も持つて行つて無駄したのだから」と謝礼を要求し、同人から謝礼として中古タイヤ三本(価格三、四百円相当)の贈与を受けて利得し(記録三十一丁)(二)の草間平左エ門から買受けた自転車は、買値九百円のを高橋大に代金二千円で売り渡し、現に千百円を利得し(記録五十三丁)(三)の斎藤幾雄から、石油コンロ一個と交換で譲り受けた婦人用自転車は、ほぼ千円位の損失をして、之を朴元善に、代金二千五百円で売り渡した際の事情は、該石油コンロは、昭和二十八年三月頃、高橋大から、代金二千五百円とし之を三月払の契約で買い受け、その際五百円を支払い残額二千円はその後千円宛二月に支払う約束の処二十八年九月に至り千円を入れたのみで残金千円未払(記録五十五丁)のものであり、斎藤には該コンロ打金千円手渡し、自転車は特に注文で組立たものであつて、現実に被告人から出た金は合計二千五百円であつたが、被告人は、これを三千五百円で売るべく、斎藤方から、三千五百円の領収書迄書いて貰つて売込みに行つたが、相手方が朝鮮人であつて、態度が強硬であつた為に、遂「みすみす損」と知り乍ら、不本意の侭手放した(記録七十七丁)ものであつて、その後之を埋め合せて利得すべく斎藤に対し、「この間の婦人車では一銭にもならなかつたから、何んとか煙草銭丈でも心配して貰えないか」と謝礼を要求し、同人からあべこべに「冗談じやない、自分はあんたに頼まれたから組立ててやつたが、今となつてみれば多少損している、自分が頼んで周旋して貰つたのでもあるまいし若しも煙草銭にしたいなら先方のあんたに頼んだ人から貰つたらどうか」とこれが要求を断呼拒絶された事実(記録七十九丁)等に徴し、被告人は毎に利得追求を意図して居たものであり、且つ、毎回被告人の方から「自転車を欲しがつている人があるから」と云つた趣旨で各自転車業者へ交渉の上、販売委託の形式で持ち出していたものであつて、原審が認定している「いわゆる手間稼ぎとも言わるべきものであり、かたがた好意的意味もあつての所為に出たもの」とは到底考え及ばないところであつて、本件被告人が当初から「営利を目的として、自転車の委託売買を、反覆継続的に行つていた」ことは、一点疑を容れる余地のない程明らかである。

第五、かくの如く被告人の所為は明らかに古物商としての営業と見られるに拘らず「多少の利益を収めたにしても、これによつて自ら継続収入の基礎とする意思がない」と解し或は「営業として反覆する積りがない」とした原審の認定には正しく事実の誤認があるのであつて、又叙上の如き認定の上に立ち殊更に営業の概念に制約を設け本件被告人の所為をもつて古物営業法第六条の場合に該当せずと解したのは又法令の適用に誤りがあるものと謂わねばならぬ。

弁護人の答弁書

一、原判決が「被告人が四台の自転車の売却方依頼を受けてこれを売り渡したことは明瞭であるが、これを古物営業と認定するには古物の売買、斡旋、交換などこれが取引の態様や利益状況など諸般の事情を考慮し客観的に観察して或る程度古物営業としての形態を備えた行為でなければならず、無許可で数回古物の売買等をし或はその間、多少の利益を収めたとしてもこれによつて自ら継続収入の基礎とする意思のない場合とか営業として反覆する積りのない場合はいずれも古物営業法の適用がない」との見解の下に本件に臨み、被告人が古物営業を為したとの点は証拠不十分であるとして無罪の宣告を為したのに対し検察官は、(一)法律用語としての営業とは「営利の目的をもつて同種の行為を反覆継続的に行うことを謂う」ものと解するのが通例であるが、古物営業第一条第二項及び同法第六条にいわゆる営業もこれと別義に解すべき理由はないこと、(二)古物営業法制定の趣旨が古物の特殊性より古物営業を警察の監督の下において賍物の流れを阻止し犯罪の発生を未然に防止する点に眼目があることの二点を挙げ「古物営業法にいわゆる営業の解釈にあたつて通例の営業の概念をむしろ拡張する理由こそあれこれを狭く解すべき理由は見出し得ない」となし原判決は法令の適用を誤つた違法があると主張している。

然しながら第一にその営業を警察の監督の下に置き、犯罪の発生を未然に防止せんとする取締法規は敢えて古物営業法を俟つまでもなく犯罪の温床となり易い各種風俗営業その他に均しく見られるところであるから、古物営業法のみに限つて営業の概念を拡張する理由は何処にもない。第二に法律用語としての営業は「営利の目的をもつて同種の行為を反覆継続的に行うことを謂う」のを通例とするとの点は之を肯認するにやぶさかでないが、原判決が古物営業法第一条第二項及同法第六条にいわゆる営業をこれと別義に解したものとする検察官の主張は原判決に対する誤解に非ざれば曲解である。何故ならば「営利の目的」と単純なる「利得の目的」とは必ずしも同一ではない、もとより「利得の目的」なるとき「営利の目的」と目さるべき事例は多いであろうが、之を以て直に同一視すべきものではなく両者は別個独立の概念である。之を判例に徴するのに、銃砲火薬類取締法につき「営業とは営利の目的」を以て同種の行為を反覆するを指称する」(大審院昭三、五、二四)、遊技場営業取締規則につき「継続的収入を図る為に玉突倶楽部を経営する者は営業者である」(大審院大一四、九、一八)と謂ひ、刑法第二百五十三条に所謂「業務」につき「業務とは職務又は営業等之に依りて自己の生活を維持する業務に限定せらるものに非ず」(大審院大三、六、一七)と判示しているように「営業」とは「営利の目的を以つて」又は「継続的収入を図る為に」或は「自己の生活を維持する」意思で為されるものでなければならないとする趣旨が窺われるのであつて、その表現に多少の差異があつても何れも単純な「利得の目的」を以て十分とはしていないこと明白である。さればこそ原判決はその取引の態様、利益の状況等諸般の事情を考慮して客観的に観察して或る程度古物営業としての形態を備えた行為であるかどうか」を見極めるという周倒な用意を以て審理を進めた上「被告人に於て利得する意思のあつたことは否めないとしてもそれはいわゆる手間稼ぎとも言わるべき程度であつて営業の概念に至らざるもの」と判示したのである。依つて原審判決には法令の適用を誤つた違法はなく論旨は理由がない。

二、次に検察官は原判決が被告人において古物営業を為したとの点は証拠不十分として無罪と認定したのは事実誤認であると主張し証拠をかれこれ援用綜合して原判決を論難攻撃しているが、原審の事実誤認には何等採証の過誤なきのみならず、事実の認定は原審の専権に属するところであるから論旨は理由がない。依つて本件控訴は棄却さるべきである。

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